2017年5月24日、わすれン!スタッフ5名で岩手県陸前高田市へ視察に行ってきました。
現地では、わすれン!参加者・陸前高田在住の佐藤徳政さん(クリエイティブ集団FIVED)にご案内頂き、震災から6年が経過した町の現状や、かさ上げが進む地域の様子、古くから残る歴史的な場所などを回りました。
2011年3月11日の東日本大震災による大津波などによって、死者・行方不明者を合わせると市の人口の7%以上が失われるという大きな被害を受けた陸前高田市。岩手県のなかでも被害の大きい地域として、その壊滅的な状況が写真や映像などで知られることとなりましたが、「高田松原」や「白砂青松の浜」など、日本百景にも数えられるような、美しい浜の風景が広がる地域でもありました。
佐藤さんは、陸前高田市森の前地区を中心に、伝統や文化を守り、伝承し、創出するという活動を行っています。現在の活動や、町との関わり方、想いなどを話して下さいました。
高田松原タピック45は、国道45号線を通ったことがある人なら馴染みの深い道の駅ではないでしょうか。
津波によって大きく破壊された建物は、震災遺構として保存される事となりました。
また、同敷地内には、「復興まちづくり情報館」という施設が設置されています。市内で進められている多くの復旧復興事業についてのパネル展示などがあり、震災前と震災後の状況、緊急対応期の状況、復旧・復興の状況などが紹介されていました。
かさ上げされた場所に真新しい商業施設が完成していました。住民にとって待ち焦がれた完成だったそうです。それは、「少しづつ当たり前の暮らしを取り戻しているんだ」という希望のようなものなのかもしれません。商業施設の遊具では、休日になると家族連れで賑わい、子ども達が楽しそうに遊んでいるのだそうです。しかしその反面、すぐ裏手にある「本丸公園」には遊びに訪れる人々がいないという現状に、佐藤さんは複雑な想いを抱いているようです。本丸公園には、神社や石碑があり、登りきった場所には緑に囲まれた開けた空間があります。ここは昔から、子ども達の絶好の遊び場だったのかもしれません。「この場所で楽しい経験をしてもらおう」という事も、佐藤さんの行っている活動の一つです。
「被災地を訪れる」という事は、しばしば被災の状況が目の当たりにできる沿岸部や、変わりゆく町の様子を見ることができる場所ばかりに目を向けがちかもしれません。佐藤さんはそのような場所ばかりではなく、訪れた人が楽しんで「また陸前高田に来たい」と思うような場所、過去との連続性や自然と人との関係性を感じることができるような場所も案内して下さいました。
陸前高田市森の前は、佐藤さんが生まれ育った町です。「五本松」は子どもの頃によく遊んだ場所であり、滑り台にしたこと、転んで頭をぶつけたこと、巨石にくぼみがあって柱が立っていたこと等々、かつての光景を重ねるように教えてくれました。佐藤さんは、人びとのよりどころであった「五本松」を記憶装置として、「五本松ありがとう会」の開催や、「五本松神楽」の制作などを行ってきました。しかしこの場所も、かさ上げ工事によってまもなく土の下に埋まる事が決まっています。
最後に、高田地区に新たに完成した複合商業施設「アバッセたかた」にて、今回の視察の振り返りを行いました。
震災以降、沿岸部といえばどうしても「被災地」という感傷的なイメージばかりが先行してしまいがちでした。しかし、陸前高田に住みながら活動されている佐藤さんに案内をして頂き、町のことやご自身の活動を聞かせて頂くことを通して町を知るという体験は、様々な発見があり、「もっと町の事を知りたい」という気持ちにさせてくれるものでした。なかでも印象深かったのは、ご自身にとって「(復興工事が行なわれている)今は町の歴史の空白期なのだ」という言葉です。今後かさ上げ工事が進み、若い世代の住民にとっては、新しい土の上が故郷の原風景となっていくのかもしれません。その時、他所から来た人と町を結び、住民にも古くからある場所で何か体験の機会を作ろうとする佐藤さんの活動は、震災以前と震災以降の間の空白を繋ぐような役割を持つのかもしれない、と感じました。
今回の視察で訪れた場所:四海楼/一本松壁画/陸前高田定住促進住宅/FIVEDプレハブ/まちづくり情報館・タピック/佐藤たね屋/本丸公園/東滝/五本松巨石/アバッセ