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地図に記された風景 —福島県浪江町写真アルバム—

髙橋親夫さんの記録の整理術

仙台市高砂土地区画整理事業がはじまる1984年、そこに暮らしていた髙橋親夫さんは、変わっていく故郷へ想いから風景の写真撮影を始めました。震災後、その何気ない風景写真が思いがけず特別な意味を持つようになり、現在では貴重な記録として多くの人に求められています。

過去につながるものが失われた時、失われてからでは記録できない、過去は写せないという当たり前の現実をあらためて痛感した髙橋さんは、震災後も地域の記録を続けています。この記事では、2016年から髙橋さんが記録し続けてきた「福島県浪江町写真アルバム」について紹介します。

福島県の浪江町に通い始めたきっかけは、2015年に福島を訪れたことでした。そこで目にした光景は衝撃的で、言葉を失いました。マスクを付けた作業服の人々、表土が剥がされたむきだしの大地、草原に埋もれた民家——。仙台は復興の道筋が見えてきたころでしたが、福島ではいまなお深刻な災害が続いている現状を目撃し、行かずにはいられない、いたたまれない気持ちになったと言います。

【福島県浪江町の記録】

2017年3月、浪江町では一部の地域を除き、避難指示が解除されました。避難指示が解除されればまちが大きく変わってしまう、誰かが残さなければ——。髙橋さんは解除前年の2016年10月より浪江町の記録を始め、解除前/解除後のまちの変化の写真を撮影し続けています。

記録を始めた当初は、震災時から時間が止まったような景色がそこにありましたが、 避難指示が解除されると、家々が解体され、止まっていたまちが次々に姿を変えていきました。震災から時間が経つ中で、あらたに現れた光景、消えていった景観が写真に写り込んでいます。 

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「星空と路2021」での展示「浪江のきた道・ゆく道」より

髙橋親夫さんの「記録の整理術」

髙橋さんは何度も何度も同じ場所に足を運び、その場所の変化を撮影してきました。2016年から始めた撮影は2021年現在も続いており、その写真数は8000枚を超えます。
以下、膨大な写真を「記録」として管理するために髙橋さんが実践している、独自の整理術を紹介します。

【19冊の写真アルバム】

写真はL版でプリントし、撮影した順番にアルバムにおさめます。現在アルバムはアルファベット順にAからSまで計19冊あり、今後T、U、V……と増えていく予定です。

1冊につき480枚収納でき、いっぱいになったら次のアルバムに進みます。
アルバムA〜Gは避難指示解除前(2016年10月〜2017年3月)、アルバムH以降は避難指示解除後(2017年4月〜現在)の記録です。


1枚1枚の写真に識別番号を付与しています。「F40」は「アルバムFの40枚目」を示し、下記の地図上の識別番号と対応しています。

 

【撮影位置図】

写真の撮影場所はすべて、地図に記録されています。




地図上の矢印は、髙橋さんが写真を撮影した位置と向きを示しています。初期は和紙に手書きをしていましたが、複製の必要から独学で習得したCADで地図を作成し、その上に撮影地の矢印を記入しています。 

同じ場所に何度も通って撮影をするため、地図上には複数の矢印が重なります。撮影時期の違いを表すため、矢印はアルバムごとに色分けをして、それぞれに識別番号を付与しています。

アルバムの写真に付けられた識別番号(例:アルバムFの40枚目)を、地図上の矢印の識別番号(例:F40)と照らし合わせることで、その写真がいつ・どこで・どの向きで撮影されたのかを知ることができます。

*これらの資料は、せんだいメディアテークで実際に手に取ってご覧いただくことができます。地図とアルバムを行き来しながら、髙橋さんの記録に触れてみてください。

 

星空と路2021での展示風景

 

髙橋親夫(たかはしちかお)

1947年仙台市生まれ。1級建築士。建築業に従事する傍ら、1984年から20年間地域の記録写真約1万枚を撮影、2008年仙台市博物館に寄贈。2015年京都造形芸術大学写真コース卒業。同年、写真集『あの日につづく時間—2011.3.11』(冬青社)を出版。震災後も沿岸部を中心に写真を撮り続け、現在は福島県浪江町・双葉町で福島第一原子力発電所事故による避難指示の解除前、解除後の風景の記録を重点的に行っている。

CADで地図を作成する髙橋さん

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髙橋さんの記録を活用したい方、浪江町の写真をご覧になりたい方などいらっしゃいましたら、わすれン!までお気軽にお声がけください。

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