東日本大震災で避難所となった仙台市立七郷小学校は、学校教育活動全般を安全や防災の観点から広く見直し、教科・領域の内容の一部を統合した「防災安全科」を全学年に創設し、実践に取り組んできました。(平成25年〜28年度:文部科学省の研究開発指定制度対象研究)
今回は、特別支援学級における特別支援防災安全科の単元「べんりな防災グッズ」(10時間扱い)のなかで、わすれン!でアーカイブしている写真が利活用されたのでご紹介します。
利活用された写真は、震災当時の七郷小学校や仙台市若林区荒浜を記録の一部です。※大きい写真はこちら
特別支援学級の子供たちの場合、大勢の人びとが避難し、生活を共にする避難所に行くことに難しさを感じ、行く前に諦めてしまう保護者もいるのが現状のようです。
そのため、本単元は、「震災発生後の『行動』から『生活』に焦点を移して、震災発生後にあると便利な物を知り、使ったり体験したりすることで、子供たちの気持ちを安定させ、困難な状況下を生き抜く力」を身に付けることが目標とされています。子供たちが避難所を「怖い」とイメージするのではなく「安心」して行こうと思えるようになることを目指し、災害の際には、保護者と一緒に避難できるようになることを考えたそうです。すなわち、発災直後の命を守るための避難という「行動」ではなく、行動の後にやってくる「怖い」や「不安」といった状態を軽減するために、情緒の安定を図るための「生活」に着目したのが、今回の授業と言えます。
簡単に、単元の流れを順に紹介します。
1時間目:地震が起きて、電気や水道、ガスなどのインフラが使えなくなったら困ることについて、具体的に電気、水道、ガスなどの使用例をもとに考えてみる。
例:
「電気はつくかな?」
「お風呂に入れるかな?」
「ごはんを食べることが出来るかな?」
また、視覚優位の子供も多いため、日常的な生活の様子はイラストで想起させ、実際に起きた現状は写真を用いて伝えるように工夫したことで、状況をイメージしやすい子どもいたそうです。
2〜6時間目:災害時に無いと困るけれど、代わりがあればできることを知り、実際に体験する。
例:
「電気はないけど手回しライトや懐中電灯がある」
「ごはんは作れないけどクッキーや非常食はある」
代わりのものを知ることによって、「これがあれば安心」という意識を持てるようにしていき、「手回しライト」や「携帯ミニトイレ」「体ふきシート」「非常食(乾パン)」など、実際に市販されている物を用意して体験をしてみたそうです。
7時間目:震災当時、七郷小学校に避難してきたゲストティーチャーの話をきき、実際の避難所のように、ダンボールで自分のスペースを作れるか試してみる。
ゲストティーチャーで来られた南雲さんは、実際に避難所となった七郷小学校に避難し生活をされたそうです。授業で用いた写真の現場にも居たそうです。七郷小学校は、避難してきた人が次々と増えていき、腰を落ち着けるスペースが少なくなっていった、というような避難所での自身の経験など当時の話をして下さったそうです。
8時間目:避難所がどのような場所か知り、どんな避難所であれば行けるかどうか考えてみる。
避難所の写真を用いて、避難所がどのような場所であるのかを再度知る。「怖い」というイメージを抱きがちな避難所について、これまでの学習をもとに、改めて避難した方がよいのかを確認しました。また、どのような避難所であれば行くことができるのかに考えました。
9時間目:避難所に持っていく「マイ持ち出し袋」に何を入れるか考える。
自分の気持ちを落ち着けるためには何があるとよいのか、自分だけの持ち出し袋について考えました。
10時間目:ゲストティーチャーの話の後、ダンボールで自分のスペースを作り避難所体験を行う。自分のスペースができたら持ってきた「マイ持ち出し袋」の紹介をする。
10時間目の授業には、わすれン!スタッフも参観させていただいたのですが、特に「マイ持ち出し袋」については大変興味深いものでした。高学年の子は、防災グッズを持ってきており、さすがだと感じる一方、低中学年の子が持ってきた、絵本やぬいぐるみ、リアカーなどを持ってきており、自分の持ってきた物を嬉々として話す姿からは、自分の宝物であることが伝わってきました。 それぞれ、思い思いのものを持ってきてろり、それが「自分の情緒を安定させる」ために必要な物であったのだと思います。
「マイ持ち出し袋」という名称は、先生たちの意見交換会の中で「自分自身の袋だから『マイ』持ち出し袋だよね」という言葉から生まれたそうですが、子どもたちの持参物は「自分の情緒を安定させる」ための自分だけの「マイ」袋になっていたのだと思います。
そして、「自分の情緒を安定させる」ということは、特別支援学級の子供たちに限らず、全ての人に共通することだと思います。緊急時の後にやってくる生活において、「自分の情緒を安定させる」ために必要な物はなんであるのかを改めて考えさせられました。
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今回の写真の利活用は、写真自体も七郷小学校を記録したものであり、写真の内容と授業の現場が一致していました。そのため、児童たちも現場を一層イメージし、身近な所として捉えることができていたかもしれません。ただ、災害時に避難所として機能する学校は、体育館や教室といった同じ構造を持っており、多くの人びとが共通認識としてイメージしやすい場所です。そのため、今回のような写真利用は、他の学校においても可能ではないか、と考えることが出来るよい機会となりました。
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七郷小学校 定点観測写真