長年地域の写真を撮影し続けている仙台在住の髙橋親夫さんが、震災直前の2011年2月、宮城県の沿岸部を歩いて撮影した写真と、それに寄せた文章です。
(以下、文・写真:髙橋親夫)
海は知らなかった
少し後に津波が押し寄せて来るとは
晴れた冬の渚には、
潮騒と共に絶え間なく波が寄せては引いていた
漂流物に目を止めながら、
永遠にこの平穏が続いていくものと、
私は疑うこともなく波打ち際を歩いていた
港は知らなかった
少し後に津波が押し寄せて来るとは
船はいつものように港に抱かれ、疲れを癒し、これからの出番を待っていた
平穏の日常がずっとこのまま継続していくことを当然と思い、
船は寿命が終わるまでその役割を果たそうと日々を送っていた
風景は何もかもが信じ切った表情をしていた
普通という風景は、いつもと変わらないことを、
信じて疑わない
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2011年2月9日 仙台市若林区 荒浜・藤塚
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2011年2月12日 名取市閖上
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2011年2月28日 仙台市若林区 藤塚
[2023年10月2日公開]