語り手:押野緑さん/進行・聞き手:佐藤正実さん(NPO法人20世紀アーカイブ仙台)
■崩れた瑞鳳殿御子様御廟
[押野さん(以下、押)]私、伊達政宗公が好きで、「奥州・仙台おもてなし集団伊達武将隊」(註:仙台・宮城の観光PR部隊)のおっかけなんです。
まず、これは瑞鳳殿の御子様御廟の写真です。坂を上っていったところの左側に瑞鳳殿があるのですが、その右側の方に行くと藩主のお子様のお墓があります。ほとんど日中でも人がいないので、はっきり言って女性一人で入るのにはちょっと危ないかなって感じの場所でもあるんですけど、そこにたくさんの灯籠が並んでるんですよ。それがものの見事に全部倒れて、ばらばらになってたんです。ここで私は、ショックというか、いわゆる膝の力が抜けて、へたり込みました。自宅で地震に遭った時よりも、ここの方が心がへにゃってなりました。
[佐藤さん(以下、佐)]それは押野さんらしいですね。
[押]だってこれを見た瞬間、どうやって直すの?って思ったんですよ。今はもう全部綺麗に元通りになってます。
■塀と同じ向きに倒れた植込み
[押]この写真が、感仙殿で、伊達家の2代目3代目のお墓の廟の前になります。奥に、ちょっと豪華な建物が見えますが、その手前に、石垣が3段くらいの塀があったんです。その塀も植えてあった木も、おそらく同じ向きに揺れて、全部崩れている状態でした。ちなみにこれも今はもう綺麗に直っています。
■地震で落下した政宗公胸像がブルーシートに覆われる
[押]この写真は、仙台市博物館の裏にある、1番最初の政宗像の胸像です。戦時中に、像が鉄だったものですから、供出されたんです。でも、それを鉄砲の玉にするのは忍びないっていうことで、塩竈の業者さんだったと思うのですが、胸から上だけまだ持っていらして、それを戦後にここの四角い台の上に設置していたんです。それがなんと震災で落ちてしまって。
[佐]このブルーシートの中に入ってるのが、政宗公胸像なんですね。忍びないですね。
[押]はい。その下にいらっしゃいます。一応前のめりに落ちてくれてよかったなって思うんですけども。ブルーシートの右端のあたりがちょっと歪んでるような感じになってますけど、あそこは実際今でも歩くと、地面が歪んでるんです。だからそれは多分地面の隆起でだと思うんです。これもさすがにこのままにしておくのは良くないと思ったらしく、割と早い時期に、元の位置に戻ってました。
[佐]なんか押野さんは、文化財課の方の記録写真をみなさんに発表してるみたいな感じですね。学芸員の方みたい。
[押]いやいや。そりゃもう、担当の方は当日写真を撮っていますよ、きっと。
[佐]壊れていなかったんですか?
[押]ブルーシートをめくるわけにはいかなかったから、ちゃんと中は見てないんですけども、現物が復活していますから、ちょっと曲がるくらいはしたんじゃないかと思うんです。今はちゃんとなってるけど、どうだったのかな。ひょっとして無理矢理戻したかもしれないな、と思います。
■地面に亀裂が走っている仙台城址広場
[押]その後、その足で、博物館の裏の道をずっと歩いて登りました。普段、るーぷる仙台(註:仙台市内の観光地を循環する路線バス)が通っていた道は通れなくなっていたんです。
この写真は、仙台城の広場で、ここのちょうど左側の方に騎馬像があります。そして右側から下のところに、しっかり形作られた、四角い石で組まれた石垣があります。手前のところは写真を見て分かるように亀裂が入った状態になっていたんですよ。ちなみにここも、タイルの修復と張り替えが終わって、今は綺麗になってます。白くてまぶしくてしょうがないくらいの、コンクリートみたいなのものが敷かれていました。
■崩れたままの仙台城石垣
[押]これはるーぷる仙台が前に回りこんでいた仙台城の西側のところの塀です。裏側にあるこれらの石垣は古くて、昔から削られてない丸い石が組んであったものですから、そういったところはさすがに崩落してるんです。これから、どの石がどこに積んであったかをちゃんと調べて、元通りにするそうで、2年くらいかかるみたいです。
■ハリストス正教会
[押]これは友達に会いに石巻へ行った時に撮ったハリストス正教会の写真です。お城が好きで知り合った友達がいたのですが、インターネットでやり取りをしているうちに、元気がなくなってしまっているということが分かって、みんなで会いに行こうということになったんです。6時間並んで車にガソリンを詰めて行きました。
教会の向かい側が石ノ森萬画館なのですが、この場所は旧北上川の中瀬なんです。だからもう、ここだけじゃなく周りもひどいもので。掛かってる橋も欄干が、うにゃっと曲がってしまった状態でした。逆に、よくこの建物は形が残ったなぁと関心しました。
建物の形自体は綺麗に残っているので、修復可能だとは思うのですが、地盤はかなり沈下してしまっている状態です。ある写真集で、この教会を正面側から撮っている方がいらっしゃいましたし、どう残して行くのかこれからも見ていきたいと思います。
■仙台フィルによるコンサート
[押]これが最後の写真です。仙台フィル(仙台フィルハーモニー管弦楽団)が、確か4月3日からだったと思うんですけども、いろんな避難所とかを回って、復興支援のコンサートを始めていました。この時演奏していたのはモーツァルトの曲だったのですが、前に立っていた子どもが2人ともリズムを取って踊りだしていました。
その後も、仙台フィルは、小さな避難所も4、5人の編成で演奏に訪れたりして、何百回も被災地コンサートを開いていました。青年文化センターでの定期演奏会の復活コンサートの時は会場が満員でした。今後もそんな仙台フィルの活動を見守っていきたいなと思っています。
*この記事は、2012年5月26日にせんだいメディアテークの考えるテーブルで行われた『3.11定点観測写真アーカイブ・プロジェクト公開サロン「みつづける、あの日からの風景」』で、押野緑さんがお話された内容を元に作成しています。
当日の様子はこちらからご覧いただけます。
《考えるテーブル レポート》→http://table.smt.jp/?p=3689#report
【3.11定点観測写真アーカイブ・プロジェクトとは】
このアーカイブ・プロジェクトは、東日本大震災で被災した宮城県内各市町の震災直後の様子、および震災から定期的に定点観測し復旧・復興の様子を後世に残し伝えるために、市民の手で記録していくものです。これから市民のみなさまから記録者を募っていくとともに、その情報交換・活動の場を公開サロンとして定期的に行っていきます。これらの定点観測写真は、NPO法人20世紀アーカイブ仙台とせんだいメディアテーク「3がつ11にちをわすれないためにセンター」で記録・公開し、市民参加で震災を語り継ぐ記録としていきます。
NPO法人20世紀アーカイブ仙台
公式Web:http://www.20thcas.or.jp/
【考えるテーブルとは】
人が集い語り合いながら震災復興や地域社会、表現活動について考えていく場を「考えるテーブル」と題して、せんだいメディアテーク、7階スタジオに開きます。トークイベントや公開会議、市民団体の活動報告会など多様な催しを行っていきます。