2023年12月6日、お茶の水女子大学の授業(担当:丹羽朋子)で、対話ワークショップを行いました。
東日本大震災当時は子どもだった大学生30人は、震災後に市民が撮影した「わすれン!」の記録映像4本を視聴し、各映像ごとのグループに分かれて対話を行いました。映像を観て感じたことを伝え合い、他者と共に言葉を見つけてつなぐ試みから、“継承”のヒントを探りました。
※この対話ワークショップの記録は、学生有志による編集作業を経て、2024年3月の「星空と路」で展示されました。展示に際し、対話の全文は「映像に触れて、言葉を紡ぐ」という冊子にまとめられました。
この記事は、冊子に掲載された情報を再構成したものです。
冊子のPDF版は下記リンクから閲覧・ダウンロードができます。
映像に触れて、言葉を紡ぐ——「正解のなさ」と向き合った 大学生の対話の記録(全文)
展示・冊子制作:瀬木和佳奈・野口真悠子・野本彩乃・平子七海・吉村紫織
テキスト作成協力:松島有希・太田萌実
編集・監修:丹羽朋子
対話ワークショップによせて
これは、私たちの対話の記録である。
13年前に発生した未曽有の出来事に正面から対峙し、
このことをめぐる映像表現が持つ意味を懸命に探り、
被災地に生きた人々の感情や経験を真に実感することのできないもどかしさと
言葉を紡ぐということの難しさに何度も直面しながら、
それでも“3.11”を分かち持つことに挑戦した記録である。
お茶の水女子大学で2023年度後期に開講された授業「民族誌学特殊講義」の履修生30人は、震災後に市民が撮影した「わすれン!」の記録映像を視聴し、対話型ワークショップを行なった。
「地震・津波の再来に恐怖を感じながらも、今もなお住み続けるのはなぜか?」
「“よりどころ”とはどんなものか?あなたにとっての“よりどころ”とは?」
「震災の当事者とは?」
「“弔う”ってどういうこと?」
どこまでも正解がないような4つの問いを巡る対話。
その中で私たちが紡ぐ言葉はどこかたどたどしくて、ときに「語れなさ」の感覚が自己自身に突き付けられた。
また、対話の様子を文字に起こし、その日私たちが語った言葉にもう一度向き合った今回の一連の展示制作は、被災地のことをうまく言語化できない私たち自身を対象化することをも意味した。
私たちには、3.11のこと、被災地のこと、あの日失われた誰かの大切なもの・こと、
震災前にたしかにそこにあったはずの暮らしのこと、
今でもわからないことや思い出せないことがたくさんある。
それでも、この対話型ワークショップにて、一人ひとりが自分事化した形で問いを再解釈しながらその答えを探っていく過程を通して、「私たちも語っていいんだ」と思うことができた。
そして、これはあなたへとつなげる対話のバトンでもある。
今この瞬間も失われていく記憶や風景がある。
その中でも、私たちがともに3.11に思いを馳せ、悼み、考え続けるという道とその先に拓けた未来は、今日を生きる者たちに残された希望であるだろう。
私たちお茶の水女子大学の学生による対話の記録が、あなたが明日新たに紡ぐ言葉や抱く問いへと形を変え、また違う誰かへと言葉や想いが語り継がれる営みが永く続くことを願っている。
平子七海(お茶の水女子大学 有志)
対話ワークショップの記録
「わすれン!」の4つの映像ごとに、グループに分かれて行われた対話ワークショップの記録(文字起こし)を、下記のページで公開しています。
● 今もなお住み続けるのはなぜ?——『生きられる家(1)岡田地区 吉田さん宅』をめぐる対話
● “よりどころ”とはどんなもの?——『石と人』をめぐる対話
● 震災の当事者とは?——『過去を見直して、今を見つめる』をめぐる対話
● “弔う”ってどういうこと?——『参佰拾壱歩の道奥経 抄』をめぐる対話
「星空と路」(2024年3月)での展示
「わすれン!」の各映像への感想や、対話ワークショップの記録映像、対話の流れをまとめたテキストなどを、「星空と路」(2024)で展示しました。