語り手:小野朋浩さん/進行・聞き手:佐藤正実さん(NPO法人20世紀アーカイブ仙台)
■壁面に亀裂の入ったビル
[小野さん(以下、小)]僕は会社員だったのですが、震災が発生して会社から全員外に避難しました。3日後に各自来られる方は会社に来ることとの口頭の指示で、その場で解散しました。僕は幸い自転車で通える距離に自宅があったので、3日後に会社に行き、会社の中の崩れてしまっている部分の片付けをやっていたのですが、それ自体は1時間か2時間くらいで午前中に終わってしまい、今日は終わり、じゃあまた明日、という日が何日も続いて、午後から家に帰れるという状態でした。残すというところまでは考えていませんでしたが、自分が見てきた所で何か変化があるところは収めておきたいという風に思って、携帯電話で写真を撮ることになりました。
[佐藤さん(以下、佐)]小野さんの写真は、全部携帯電話で撮ったんですか?
[小]携帯電話です。iPhoneで撮りました。この写真は、その仕事帰りだと思うんですが、近くのビルを見たときに、少し、気持ち悪さを感じるような模様のようなヒビが入っていたので撮りました。
■本が散乱したままの書店
[小]この写真は、仕事が終わった後、町の中はどのようになっているのかと思って、アーケードを通った時に撮りました。17日なので、震災から6日経った後でしたが、本屋さんの本はこのように散乱したままでした。この本屋さんは、一番町商店街の中にあって、まだわりと新しいお店でしたが、ビルが老朽化していたので立ち入れなかったのだと思います。
■物資不足の中一番町のマルシェ・ジャポンに並ぶ人々
[小]商店街を通りかかると、マルシェ・ジャポン(2009年秋、農林水産省の支援により全国8都市で始まった都市住民参加型の市場。2013年3月にて仙台は終了)に長蛇の列ができていました。この頃は本当にどこいっても何も手に入らず、スーパーも並んでいましたし、この列も全く同じ様な状況だという風に感じて撮りました。
■食料が売り切れたコンビニの棚
[小]食材を探しに歩いていた時に入ったコンビニなのですが、棚に品物が一つもないという光景は始めて見ました。どこのコンビニの店内も同じだったと思いますが。実際にこのコンビニで何か買える物があったとしたら、ガム類とか、ひげ剃りとか、そういったものだけで、お客さんはお店に入るけれど何も買わずに出て行くという印象でした。
[佐]2012年2月から市民の皆さんから寄せられた震災写真の全国パネル展を、九州・北海道の間115カ所でやったんですけど、そのときに、震災の様子が分かる写真と、震災の中の生活が分かる写真を半分半分でお送りして展示をしてもらったのですが、このコンビニで何も売っていない写真っていうのはすごくショックだったらしいです。家の中に溜め込まなくても、近くにコンビニあるんだからそこに行って買えば大丈夫、地震の時だって大丈夫だ、って思っていた節が多く見られ、実はコンビニって使えないんだって言うのを初めて知った、っていう話をよくアンケートとかで見るんです。だからこういう写真を目の当たりにすると、やっぱり準備をしておかなきゃダメだな、というのはよくわかる写真だと思うんですよね。
■シートで覆われている酒蔵
[小]勝山館(結婚式場)のお隣に、お酒の瓶とかそういった物が飾られている蔵です。これは自宅から街中に行く道中にあり、それで撮ったものなんです。この蔵の近くにある、例えば勝山のボーリング場も、今では営業は・・・もう取り壊しになっていたりとか。その酷さというかすごさが目に見えて分かるときでした。瓦とかも、当時話題になってたと思うんですけど、瓦が足りないとか。そういったのもあってブルーシートがかかっているんだろうな、とか。壁が落ちてはいるけども、大工さんが、手が足りないというようなのがここに出ているんだろうな、というのが、この写真を撮ったときは感じながら撮りました。
[佐]小野さんにヒアリングをさせていただいたときに、「震災後は楽しむことをもっと大切にしたいという気持ちが強くなった」ということを1年前に仰っていたのですけど、それを急に話を出して驚かれているかもしれないですが、今その気持ちはどうですかね。
[小]今、そうですね、振り返ってみてのほうがいいですか?だとすると、そうですね、コンビニの写真が象徴的だな、という風に感じてはいるんです。大型チェーン店やコンビニといったものが、本当に一気に動かなくなるものだ、動かなくなったときの自分の生活で頼ってきたものがそこなんだなって思ったときに、すごくまずショックだったというのがありました。食材を歩きながら探して、っていう話はしたと思うんですけども、そのときに食材を買える場所っていうのが既に街の中にある個人の商店さんだったり、普段は通過してしまうようなところであったり、申し訳ないのですけども。そういったところの方が逆に購入することができた、そこにも又ショックというか、今までの生活がどうだったかというのを考えるきっかけになりまして。なんだろうな、それを経て、という言い方もあれかもしれないですけども、生活っていうのを改めて考えたときに、より楽しく、っていうのは多分この辺だと思うんですが、すでにあるそういった個人の商店さんとか、その当時助けていただいた、商品を売っていただいたお店のことをもう少し自分ごととして、自分の生活の中にちゃんと入れるというか、ということをしていきたいな、というのはその当時から今も変わらずあります。
*この記事は、2012年10月27日にせんだいメディアテークの考えるテーブルで行われた『3.11定点観測写真アーカイブ・プロジェクト公開サロン「みつづける、あの日からの風景」』で、小野朋浩さんがお話された内容を元に作成しています。
当日の様子はこちらからご覧いただけます。
《考えるテーブル レポート》→http://www.smt.jp/thinkingtable2012/?p=1470
【3.11定点観測写真アーカイブ・プロジェクトとは】
このアーカイブ・プロジェクトは、東日本大震災で被災した宮城県内各市町の震災直後の様子、および震災から定期的に定点観測し復旧・復興の様子を後世に残し伝えるために、市民の手で記録していくものです。これから市民のみなさまから記録者を募っていくとともに、その情報交換・活動の場を公開サロンとして定期的に行っていきます。これらの定点観測写真は、NPO法人20世紀アーカイブ仙台とせんだいメディアテーク「3がつ11にちをわすれないためにセンター」で記録・公開し、市民参加で震災を語り継ぐ記録としていきます。
NPO法人20世紀アーカイブ仙台
公式Web:http://www.20thcas.or.jp/
【考えるテーブルとは】
人が集い語り合いながら震災復興や地域社会、表現活動について考えていく場を「考えるテーブル」と題して、せんだいメディアテーク、7階スタジオに開きます。トークイベントや公開会議、市民団体の活動報告会など多様な催しを行っていきます。