2021年3月10日から8月1日に開催した「星空と路」では、3月13日・14日の2日間、わすれン!参加者による記録映像の上映会を行いました。
3月13日13:30からの上映プログラムは「中野伝承プロジェクト 日和山と中野小太鼓」。アフタートークでは、制作者の村上幸一さんと増田芳雄さんが登壇しました。
東日本大震災により甚大な被害を受けた、仙台市宮城野区の中野小学校。被災した小学校の跡地には現在「なかの伝承の丘」という小高い丘が整備され、地域の歴史を伝えるモニュメントと慰霊塔が建てられています。
中野小学校区には4つの町内会があり、学区民運動会や盆踊り大会を合同で行うなど、長年にわたり交流を深めてきました。震災の9日後には、そんな4町内会の役員たちを中心に「中野小学校区災害対策委員会」が発足、のちに「中野小学校区復興対策委員会」と改称し、中野地区の復興について話し合いを重ねてきました。
住民たちにとって思い入れの深い小学校の跡地に「なかの伝承の丘」が完成した後、委員会は2017年3月をもって解散し、同年4月に同じメンバーにより発足したのが「なかの伝承の丘保存会」です。この保存会では、伝承の丘や蒲生日和山の除草や草刈り、そして毎年3月に慰霊祭を行うなどの活動をしています。
そんな保存会のメンバーである村上さんと増田さんが、2018年よりわすれン!に参加して取り組んでいるのが「中野伝承プロジェクト」。震災後、災害危険区域に指定された中野地区の住民たちは、住み慣れた土地を離れて他の地域へ移住せざるを得なくなりました。このプロジェクトでは、ばらばらになった住民との橋渡しを行いながら、地域の歴史や住民の声を残し、いまは住むことができなくなった「ふるさと」を記録し、後世に伝えるための映像を制作しています。
この活動を始めるまで、映像の撮影も編集も未経験だったおふたりは、ビデオカメラや映像編集ソフトの使い方を一から学び、これまでに7本もの映像を完成させました。
今回上映したのは、その中で1本目に制作した『日和山と中野小太鼓編』。旧中野小学校の東側にある蒲生干潟には、日本一低い山「日和山」があります。毎年7月には山開きがあり、中野小学校の児童による太鼓演奏が行われてきました。そんな山開きに携わってきた方たちに、地域への思いや和太鼓購入のエピソードなどを聞いたインタビュー映像です。
本映像は、本来であれば1年前に上映をする予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大により催事が中止となったため、今回ようやくお披露目となりました。
上映後のトークでは、地域の記録を残すことの意義や、映像制作の苦労話などをお話しいただきました。それを見守るように、観客席には中野地区の住民の方々がたくさん来場され、彼らの活動をねぎらう姿が見られました。
【来場者のこえ】(上映会アンケートより)
・4人の町内会長のみなさまの蒲生愛が伝わりっぱなしの1時間。町内会ってスゴいな!と思いました。
・震災前の町内会のいい関係が、震災後そして離ればなれになった現在まで続いていること、4人のお話からよくわかりました。
・今はなき中野小学校。和太鼓をして育ちました。その頃の父・母、大人の方々が動いていた事はわからずでした。今回の映像で、裏方の方々の温かさをしり“蒲生”のぬくもりを感じることができました。
・地域の文化を伝承する思いで発足した映像プロジェクトとして、かなり有意義な映像を撮っていただき、まことにありがとうございました。勉強になりました。
・記録者の方の、メディア等ではあまり取り上げることがない中野という土地を記録して後世に残していきたいという思いに、ものすごい熱量を感じました。DVDが完成した暁にはぜひ借りに来たいと思います。
・マスコミの特集番組や公的機関の制作映像とは違い、いろんな住民の方が震災の状況や復興、くらしの様子などを詳細に映像として残しているのが、資料として貴重なものだと思う。企画から撮影、編集まで自分たちでやったことも、大変だったと思うが、良かったのでは。ふるさとを思う気持ちが伝わります。7本も作りあげられてお疲れ様でした。貴重な地域の記録として残ると思います。
・廃校になられた中野小が、荒浜小に比べてどうだったのか疑問に思っていましたが、大分理解できました。なかの伝承の丘保存会の貴重な活動に敬服します。smtの支援の様子も少しわかり、心強く思いました。それにしても大切にしておられる故里への思いが伝わってきましたし、157名の亡くなられた方々の一人一人の思いもいかばかりかと思わされました。ありがとうございました。
・被災した小学校3校の中で唯一完全閉校となった中野小。震災遺構となっている荒浜小のように、目に見える形で中野小を残すことができなかったので、記憶から薄れてしまうのが早いと感じます。このような形で映像に残してもらうことは記録として貴重なものと思います。
・素晴らしい記録でした。災害危険区域となったふるさとを、これからも人々の思いをつなぐ役割としても重要なツールになっていると思いました。改めて「学生」のもつ意味を考えさせられました。子供達が、地域の真ん中にある・いるということが強い意味を持つものと思います。これだけのスキルがあれば、インタビューなど二次収集だけでなく、ぜひ今まさに動いているふるさとの動きも一次記録収集も行って欲しいと思いました。
・私は震災の時は千葉に住んでいたので、震災を実際に体験した方々のお話を聞き、改めて震災のおそろしさを感じました。また、蒲生の地域の話も沢山きけて、とてもすばらしい地域だったんだろうなぁとおもいました。中野の太鼓、聴いてみたかったです。
・その土地の住人の方が記録し、作品作りをメディアテークの方も協力しているのがおもしろいですね。学区民、婦人防火クラブ、と聞き慣れない言葉で、地域性も出るのかなと思いました。新聞や報道では知ることのできないことであったり、土地の人が発信するものは、強いというか残りますね。
・記録者、語り手、そして、その活動を支えられた保存会の方々、smt「わすれン!」スタッフの方々、福原先生。“市民が自らの手で”という主旨を、とても良い流れ、形で成し遂げられた活動と思います。
・上映後、自然に起こった拍手からとても温かみを感じました。中野地域にかつて住んでいて、この上映会に参加された方は、それぞれの記憶の畑がたがやかされる想いを新たにされたように感じました。上映会終了後、まさに時を経て、旧交を温めていらっしゃる様子を見られたのも嬉しいことでした。
【記録映像紹介】
『中野伝承プロジェクト 日和山と中野小太鼓編』 67分
旧中野小学校の東に位置する蒲生干潟には、日本一低い山「日和山」があります。毎年7月の山開きでは児童による太鼓演奏があり、地域文化を受け継ぐ機会にもなっています。そんな山開きに携わってきた男性たちに、地域への想いを聞きました。旧中野小学校と和太鼓演奏のいきさつや和太鼓購入の苦労話など、今思えば、楽しいお話です。
[制作]なかの伝承の丘保存会
[撮影・編集]増田芳雄、村上幸一
[出演]片桐豪、瀬戸信男、末永幸紀、佐藤政信、芳賀幸子(聞き手)
[撮影地]宮城県仙台市宮城野区福室 南福室集会所
[撮影日]2018年8月18日
[制作年]2020年
※「中野伝承プロジェクト」で制作された映像
・『日和山と中野小太鼓編』(2020年、67分)
・『婦人防火クラブ編』(2020年、57分)
・『中野小学校への避難編』(2020年、63分)
・『西原新聞編』(2020年、45分)
・『なかのコミサイ編』(2020年、56分)
・『復興対策委員会編』(2020年、61分)
・『3.11大津波編』(2020年、59分)
・『なかの伝承の丘保存会活動編』(2022年、22分)